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日本の化学産業はどう脱炭素化するのか:水素、アンモニア、CCUS、低炭素原料の実装ロードマップ

2026年5月30日更新日 2026年5月31日6 分で読めます
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日本の化学産業はどう脱炭素化するのか:水素、アンモニア、CCUS、低炭素原料の実装ロードマップ

日本の化学産業はどう脱炭素化するのか:水素、アンモニア、CCUS、低炭素原料の実装ロードマップ

日本の化学産業の脱炭素化は、単純な「水素化」ではありません。実際には、三つの課題が同時に動いています。第一に、ナフサ分解炉など高温熱需要の燃料をどう低炭素化するか。第二に、プラスチックや基礎化学品の炭素原料を石油由来からどう置き換えるか。第三に、残るCO2をどのように回収、利用、貯留するかです。

そのため、日本のロードマップは水素、アンモニア、CCUS、バイオ由来原料、廃プラスチック由来油、アルコール由来化学品を組み合わせる形になっています。これは派手な一つの技術突破ではなく、既存設備を使いながら炭素強度を下げるための産業実装です。

なぜ化学産業は脱炭素化が難しいのか

NEDOのグリーンイノベーション基金は、プラスチック原料の多くが石油精製から得られるナフサに依存しており、化学産業のCO2排出の約半分がナフサ分解など基礎化学品製造に関係すると説明しています。ここが重要です。化学産業では、エネルギーとしての燃料だけでなく、製品の分子そのものにも炭素が入ります。

つまり、電力を再生可能エネルギーに変えるだけでは十分ではありません。高温熱源、炭素原料、リサイクル原料、CO2管理を同時に変える必要があります。

1. アンモニアと水素は、まず分解炉の熱源を狙う

最も具体的に進んでいる領域の一つが、ナフサ分解炉の燃料転換です。出光興産は2024年2月、徳山事業所の商用ナフサ分解炉でアンモニア燃焼の実証を行い、既存燃料の20%以上をアンモニアに置き換えて燃焼可能であることを確認したと発表しました。IHIはこの実証にアンモニア専焼バーナーを提供しています。

この意味は大きいです。ナフサ分解炉はエチレンやプロピレンなど石化基礎原料をつくる中核設備であり、完全な新設ではなく既存設備に近い場所から燃料転換を始められる可能性を示したからです。ただし、20%の実証は商業的な全面転換を意味しません。安全、NOx管理、燃料供給、コスト、操業安定性が次の論点になります。

NEDOの関連プロジェクトも、2030年までにアンモニアや水素を熱源とする分解炉・バーナー技術を開発し、現行のナフサ分解炉に近いエネルギー消費とコスト水準を目指すとしています。

2. 水素は「燃料」だけでなく、化学プロセスの基盤になる

日本政府は2024年5月に水素社会推進法を成立させ、低炭素水素とその派生物の供給・利用を促進する制度を整えました。対象には水素だけでなく、アンモニア、e-fuel、e-methaneなども含まれます。制度面では、価格差支援や拠点整備支援が重要な仕組みになります。

企業側では、旭化成が川崎で複数モジュール型のアルカリ水電解パイロット設備を稼働させ、100MW級システムの実用化を視野に入れています。さらに旭化成と日揮ホールディングスは、福島水素エネルギー研究フィールドの10MW級水電解システムでつくった水素を使うグリーンアンモニア実証にも関わっています。

化学産業にとっての水素は、発電や輸送だけの話ではありません。アンモニア、メタノール、合成燃料、還元反応、低炭素原料の上流に位置する基盤分子として見る必要があります。

3. CCUSは残余排出と低炭素燃料の実装条件になる

CCUSも日本のロードマップの一部です。METIは2024年にCCS事業法が成立したことを、日本で民間企業がCCS事業に取り組むための事業環境整備と位置付けています。2026年4月には同法の施行日に関する政令も閣議決定されました。

JOGMECは先進的CCS事業として複数プロジェクトを選定し、政府目標として2030年に年間600万から1,200万トン規模のCO2貯留を目指すと説明しています。

ただし、化学企業にとってCCUSは万能な免罪符ではありません。どの排出源を回収するのか、輸送と貯留の責任分界点はどこか、回収CO2を貯留するのか化学原料として使うのか、ライフサイクルでどれだけ削減できるのかを分けて確認する必要があります。

4. 低炭素原料は「廃プラ油化」「バイオ」「アルコール由来」が並行する

原料転換では、すでに商業化に近い動きがあります。三井化学は2024年、廃プラスチック由来の熱分解油を大阪工場のクラッカーに投入し、マスバランス方式で化学品・プラスチックの生産と販売を開始したと発表しました。ENEOSと三菱ケミカルも2025年、茨城県神栖市の三菱ケミカル茨城事業所で廃プラスチックを油化するケミカルリサイクル設備の竣工を発表しています。

一方、住友化学はNEDOグリーンイノベーション基金の一環として、エタノールからプロピレンを直接製造するプロセスのパイロット設備建設を進めました。これは、石油由来ナフサに依存するプロピレン供給を、将来的に持続可能なアルコール原料へ広げる狙いがあります。

ここで重要なのは、リサイクル原料やバイオ原料がすぐに全量置換するわけではない点です。当面はISCC PLUSなどの認証、マスバランス管理、顧客ごとの低炭素グレード設定が実務上の焦点になります。

まとめ

日本の化学産業の脱炭素化は、2030年に向けて「実証から限定商業化へ」進む段階にあります。ナフサ分解炉のアンモニア燃焼、グリーン水素、水電解、CCS制度、廃プラスチック油化、バイオ・アルコール由来原料は、別々の話ではなく一つの産業転換の部品です。

この動きは、単なる環境対策ではなく、既存の石化設備、原料調達、製品認証、顧客向け供給条件を組み替える産業再設計として見る必要があります。

参考資料

  • NEDO: Development of Technology for Producing Raw Materials for Plastics Using CO2 and Other Sources
  • METI: Green Innovation Fund
  • Idemitsu: First in Japan to use ammonia combustion as fuel for a commercial naphtha cracking furnace
  • IHI: Ammonia combustion technology for naphtha cracking furnaces
  • METI/ANRE: Hydrogen Society Promotion Act
  • Asahi Kasei: Multi-module hydrogen pilot plant in Kawasaki
  • METI/ANRE: CCS Business Act
  • JOGMEC: Advanced CCS Projects
  • Mitsui Chemicals: Recycled chemical products from pyrolysis oil
  • ENEOS and Mitsubishi Chemical: Plastic-to-oil chemical recycling facility
  • Sumitomo Chemical: Propylene directly from ethanol

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  • 4. 低炭素原料は「廃プラ油化」「バイオ」「アルコール由来」が並行する
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